車のカスタムに興味を持っている方の中には、「アーシング」を検討している方も多いかもしれません。
エンジンの始動性が良くなる、ライトが明るくなる、燃費が向上するなど、さまざまな効果がうたわれているため、魅力的に感じるのも無理はありません。
しかし、インターネット上には「アーシングはやってはいけない」「効果がないどころか逆効果」といった警告も数多く見られます。実際のところ、どちらが正しいのでしょうか。
この記事では、アーシングの基本的な仕組みから、効果が出るケース・出ないケース、さらには注意しないとトラブルを招くリスクまでをわかりやすく解説します。
特に「やってはいけないアーシングの例」や「誤解されがちなポイント」も紹介しますので、導入を考えている方はぜひ参考にしてください。
- アーシングが現代の車に効果的でない理由
- 間違ったアーシングが招くトラブルの具体例
- アーシングの施工で注意すべきポイント
- アーシングに対する誤解と正しい知識
アーシングとは何か?期待される基本的な効果

「アーシング」とは、自動車の電装系チューニングの一種で、車体(ボディ)やエンジン各部に追加のアース線(マイナス線)を接続するカスタムのことです。
車のバッテリーはマイナス極がボディに繋がっており、ライトやエンジン制御など各電装品もボディを通してマイナス側に電気を戻しています(これをボディアースと呼びます)。
アーシングでは、このボディを介した電流の戻り経路を追加のケーブルで強化し、電気抵抗を減らすことで電装系の効率アップを図ります。
もともとはレーシングカーで採用された手法が一般ユーザーにも広まり、一時期ブームにもなりました。
アーシングによって期待される効果として、よく次のようなものが挙げられます。
このように聞くと「魔法のチューン」のようですが、実際には現代の車でこれらの効果を体感できるケースは多くありません。
次章から、なぜ「効果なし」と言われるのか、その理由を解説します。
アーシングが「効果なし」になるケースとは

追加アースで劇的な変化があるという期待とは裏腹に、最近の車ではアーシングしても効果なし(体感できない)という声が多くあります。
その大きな理由は、メーカー側で既に十分なアースが確保されているためです。
たとえば平成初期頃の古い車では、コスト削減などから必要最小限の細いアース線しか付いていない車種もありました。
そのため当時はアーシングで改善余地がありましたが、近年の車は最初から各所に太いアース線が配置され、電気的な最適化が図られているのです。
メーカーは当然「効率よく電気を返せば出力アップにつながる」ことを知っており、新車設計時点で十分なアースを取ることで性能を発揮できるようにしています。
実際、現行モデルのスズキ・スイフトスポーツ(ZC33S)で追加アーシングを行い、市街地から高速まで同一条件で燃費やフィーリングを比較する実験では、ほとんど差が見られなかったと報告されています(引用:レスポンス)。
また、アーシングはあくまで「本来の性能を引き出す」ための補助に過ぎず、車が元々持っているスペック以上の性能向上は望めないことにも注意が必要です。
カタログ値以上の馬力や燃費を得るような「魔法のパーツ」ではなく、劣化などで損なわれていた性能を元に戻す程度の効果に留まります。
そのため、元から正常な新車や電装系が健全な車では体感できる変化は基本的に無く、効果なしと言われるのです。
中には「ライトが少し明るくなった」「オーディオのノイズが減った気がする」といった声もありますが、プラシーボ(思い込み)や他の要因による誤差の範囲である可能性も指摘されています。
例外として効果が出やすいケースもあります。それは経年劣化でアース不良が起きている古い車です。
製造から数十年経過した旧車では、配線の劣化や端子の酸化・サビにより、本来の電気の流れが損なわれている場合があります。
その状態で新品のアース線を追加すれば抵抗が減り、エンジンのかかりが改善したりライトが明るくなる効果が出る可能性は高いです。
ただしこの場合でも、まず先に純正アース線や接点のメンテナンス(清掃や交換)を行うべきで、状態を新品同様に戻してから追加アースを検討すれば十分だと専門家は指摘しています。
要は、正常な車ではアーシングのメリットはほぼ感じられず、劣化車両で初めて違いが出るということになります。
アーシングが逆効果になる具体例(デメリット)

アーシングは効果が薄いだけならまだ良いのですが、場合によっては「逆効果」つまりデメリットやトラブルを招くリスクもあります。
以下に、実際に報告されている具体例を挙げます。
電装系の不具合・誤作動
現代の車はECU(電子制御ユニット)や各種センサー類によって電気的バランスまで高度に管理されています。
そこに安易な追加アースを施すと、電圧や抵抗の変化によってECUやセンサーが誤作動を起こす可能性があります。
事実、「最新車では良かれと思ったアーシングで不具合が起きる可能性もある」ことに注意すべきだと指摘されています。
あるスイフトスポーツの例では、追加アーシング直後からエンジンが不調となり、ECUリセットで一旦はかかったものの走行中に失速して止まってしまうトラブルが発生しています(引用:carview!)。
このケースでは「現在の車は基本的にマイナス制御のため、下手にアース量を増やすとECUの許容範囲を超えて不具合になる」と説明されており、設計以上のアースを加えたことが原因と推測されています。
充電制御車でのバッテリー・燃費への悪影響
最近のエコカーやハイブリッド車などには、発電機(オルタネーター)の充電を最適制御して燃費向上を図るシステムがあります。
バッテリーのマイナス端子付近に電流センサー(カレントセンサー)が搭載され、充放電量をモニターしている車種も多いです。
このタイプの車で電流センサーをバイパスするように直接バッテリー端子にアース線を追加してしまうと、センサーが正しく電流を検知できず充電制御が狂う恐れがあります。
チューニングパーツメーカーの注意喚起によれば、電流センサーを無視したアーシングを行うとバッテリー上がり(寿命低下)や燃費の低下、さらにはトルク低下まで発生し得るとのことです。
本来省燃費のために考え抜かれたメーカー技術を台無しにしてしまう、まさに逆効果の事例です。
充電制御車にアーシングする際は、センサー下流の純正アースポイントに繋ぐなど配慮が必要になります。
発熱・火災のリスク
アーシングではエンジンルーム内のさまざまな場所にケーブルを張り巡らせますが、高温になるパーツ(ラジエーターやエキゾースト周辺など)の近くに配線を置くと、断熱処理していないケーブルでは被覆が溶けてショートし発火する危険があります。
実際「エンジンルームのエキマニ(排気マニホールド)の上をアーシングケーブルが通ると、溶けて火災につながる恐れもある」と報告されています。
また配線自体を誤ってバッテリーのプラス端子やその配線に触れさせてしまうと即座にショート(短絡)して発煙・発火しかねません。
車両火災の原因の多くは後付け配線によるトラブルだとも言われており、アーシングも例外ではありません。
最悪の場合、アーシングが原因で車両火災など重大トラブルを引き起こす可能性は否定できないのです。
オーディオノイズ・ライトの不安定化
アーシングは「オーディオの音質向上」に効果があるとされますが、場合によっては逆にノイズが増える例もあります。
実際に「アーシング後しばらくしてオーディオのノイズが以前より気になるようになった」という体験談もあります(引用:モビー)。
また、ヘッドライトの光量自体は向上したものの点灯中にチラつき(明滅)が発生するようになったとの報告もありました。
配線追加によって電圧のリプルや干渉が生じ、かえって安定性が損なわれるケースと言えます。せっかく「ライトが明るくなる」と期待しても、このように副作用として安定性が悪化する可能性も考えられます。
さらに、一部では「アーシング後にヘッドライトバルブの寿命が短くなった」「バッテリーの寿命が縮んだ」といった指摘もあり、電装品への負担増加も懸念されています(引用:モビー)。
腐食(電蝕)のリスク
アーシングで使われる市販のアースケーブルや端子は、銅など純正より導通性の高い金属が使われることが一般的です。
異なる金属同士を接合すると異種金属接触腐食(電蝕)が起こりやすく、長期間では車体側の金属(鉄部分)が腐食してサビの原因になる恐れがあります。
ボディへのダメージを蓄積させてしまっては本末転倒なので、材質や接続箇所にも注意が必要です。
以上のように、アーシングには「効果なし」どころか「やらない方が良かった」という逆効果の事例がいくつも報告されています。
特に電気や配線の知識が不十分なまま手探りで施工すると、思わぬトラブルを招くリスクが高いといえます。
アーシングに関するよくある誤解と真実

アーシングについては賛否両論があり、初心者が混乱しやすいテーマでもあります。
ここではアーシングに関する代表的な誤解(思い込み)と、その真実を整理します。
誤解①「アーシングをすれば必ず車がパワーアップする」
真実: 車の性能は既にメーカーが最適化しているため、正常な状態の車でアーシングしても体感できる性能向上はほぼありません。
むしろ劣化した配線を新しくして本来の性能を取り戻す程度の効果で、最初から正常な車では何も変わらないのが普通です。
少数ですが「馬力が1~3PS上がった」という報告もありますが、これも誤差の範囲か特定条件下での例外と考えられていま。過剰な期待は禁物です。
誤解②「最新の車でもアーシングで燃費改善やフィーリング向上がある」
真実: 最新型の車では追加アースのメリットはまず感じられません。
前述の通り、メーカーが入念に電装設計をしており、既に十分なアースが張り巡らされています。
むしろ電子制御が高度化したことで、下手に配線を追加すると逆に不具合を招くリスクが高まっています。
実際に「近年の車にアーシングしても微塵も体感できなかった」という趣旨の声も多く、新車へのアーシングは費用対効果が極めて低いのが実情です。
誤解③「アーシングは誰がやっても簡単で安全なライトチューンだ」
真実: アーシング自体の作業はボルト留めと配線程度で比較的シンプルですが、正しい知識と手順が不可欠な作業です。
誤った接続箇所を選んだり、配線の取り回しを間違えるとトラブルの原因になります。
実際、ブームだった当時には「素人が繋いではいけない所に接続してトラブルを起こした例」が多々あったといいます。
また配線作業には確実な締結と導通確認、ショート防止の処置が求められ、安全に施工するには電装の基礎知識や整備スキルが必要です。
安易なDIY感覚で手を出すと危険を伴う点は他の電装系カスタムと同じです。
誤解④「アーシングすれば車の弱点が無くなる・何でも良くなる」
真実: アーシングは万能ではなく、改善できるのはあくまで電気の流れに起因する部分だけです。
例えば「古い車でヘッドライトが暗い」「オーディオにノイズが乗る」といった症状がアース不良による電圧低下のせいであれば、ケーブル強化で改善する可能性があります。
しかし燃費やパワーに関してはエンジン本体の効率や運転条件に左右される部分が大きく、アーシングだけで劇的に良くなるものではありません。
過度な期待は禁物で、症状の根本原因を見極めることが重要です。
誤解⑤「古い車には必ずアーシングが有効だ」
真実: 旧車で効果が出やすいのは事実ですが、まずは純正アース線や接点の整備が先決です。
長年使われた車では端子のサビやボディとの接合面の腐食で抵抗が増えている場合が多く、追加アース以前に純正状態を回復するメンテナンスが必要と専門家も強調しています。
それを怠って闇雲にケーブルを足しても焼け石に水ですし、効果があっても一時的かもしれません。
劣化が酷い場合は新品ハーネスへの交換が望ましく、アーシングは最後の手段と考える方が賢明です。
以上のように、アーシングには「手軽にできる魔法のチューン」というイメージがある一方で、冷静に見るとメリットは限定的で、デメリットや注意点の多い改造であることが分かります。
自動車メーカーでは、ミリアンペア単位で管理して、各種配線を考えていて、配線の太さや抵抗にもそれぞれちゃんとした意味がある。
引用:WEB CARTOP
このように自動車メーカーは配線1本まで綿密に設計しており、下手に手を加えない方が良い場合も多いのです。
実際にあったトラブル事例いろいろ

ここでは、アーシングにまつわる実際のトラブル事例をいくつか紹介します。
どれも「効果なし」どころか逆効果・事故に繋がった例であり、アーシングのリスクを裏付けるものです。
ケース1: エンジン不調で走行不能に(スイフトスポーツ)
あるユーザーが現行型スイフトスポーツ(前述のZC33S)にアーシングを施工したところ、エンジンが掛からなくなり、ECUリセットで一度復旧したものの走行中に再びエンジンが吹けなくなり停止するという重大な不具合が発生しました(引用:carview!)。
修理に出したものの原因特定は難航し、結果的に「現代の車は既にマイナス制御が最適化されているため、下手にアースを増やすと許容範囲を超えて不具合を起こす」と指摘されています。
このケースではアーシングが直接の原因である可能性が高く、無意味どころか車両トラブルを招いた典型例と言えます。
ケース2: オーディオノイズとライト点滅
自動車整備の経験が豊富なあるユーザーは、自身の愛車(トヨタ86)でさまざまなカスタムを行い、アーシングも試しました。
当初はヘッドライト光量アップなどに満足していたものの、しばらく経つとオーディオに異音(ノイズ)が増え、ヘッドライトもチカチカ点滅する症状が出始めたといいます(引用:モビー)。
走行に支障はないレベルでしたが不快なため、結局改善策を検討する羽目になったそうです。このように、アーシングによって電装系の挙動がかえって不安定になった実例も存在します。
本人は「ライトが明るくなった」と一時的に効果を感じたものの、トータルではデメリットが目立つ結果となりました。
ケース3: アマチュア施工による配線トラブル
アーシングが流行した当時、知識のないユーザーが誤った施工をしてトラブルが頻発したことが指摘されています。
例えば本来アースを取ってはいけない場所に繋いでしまい電装部品を故障させたり、配線の取り回し不良でショートを起こしたケースなどです(引用:Yahoo知恵袋)。
ネット上の質問掲示板でも「素人がやるとトラブル多発」「ちゃんとした効果が出る繋ぎ方を理解していないと逆効果」という声が見られます。
実際、「スターターモーターに直接アーシングすると大電流が流れるけど問題ないのか?」といった心配の質問もあり、取り扱いを誤れば危険だという認識が伺えます。
このように、誤ったアーシング施工は車両火災など重大事故にも繋がりかねないため注意が必要です。
ケース4: その他、報告されている事例
上記以外にも、「マフラーアース(マフラーから直接アース線を落とすカスタム)をしたらかえってエンジンチェックランプが点灯した」といったケースや、(因果関係の詳細は不明ながら)アーシング後になぜかアイドリングが不安定になった例など、さまざまな報告があります(※具体的な出典は割愛します)。
一方で旧車趣味のユーザーからは「効果があった」「調子が良くなった」との体験談もあり、車種や車両状態によって結果にばらつきがあるのも事実です。
しかし、専門家や整備士からは「トラブルリスクを考えると安易に勧められない」「やるなら自己責任でプロに任せた方がいい」といった慎重な意見が大勢を占めています。
ディーラー保証も受けられなくなる可能性が高いため、総合的に見ればデメリットの方が目立つと言わざるを得ません。
アーシングを施工する前に気を付けること

最後に、アーシングに興味を持った方へ施工前に必ず確認・検討すべきポイントをまとめます。
本当に効果が必要か見極める
お乗りの車が比較的新しく電装系も正常なら、アーシングで得られる効果は基本的にありません。
まず「今の状態で何か不具合や不満があるのか?」を考え、特に問題がないなら無理に手を加えない方が賢明です。
燃費アップやパワー向上などの期待は過度に抱かず、「気休め程度」「ドレスアップ目的」くらいに留めておきましょう。
車両の保証や法規を確認
アーシングは立派な改造の一つです。
新車保証期間内の車であれば、アーシング施工によってメーカー保証の対象外になる可能性が高い点に注意してください。
ディーラーにもよりますが、不具合時に「社外改造が原因」と見なされると無償修理を断られるケースがあります。
一般的なアーシング施工は保安基準に抵触することは少ないですが、ケーブルの取り回しや接続部の状態によっては車検時に整備不良と判断される可能性もゼロではありません。
改造車扱いとなることも踏まえ、施工には注意が必要です。
まず純正アースの点検・整備
古い車で電装トラブル改善を狙うなら、追加アースの前に純正アース線や接地点の整備を優先しましょう。
錆びたボルトの磨き直しや、腐食したケーブルの新品交換だけでも効果は絶大です。
それで直る不具合は多いため、安易に「線を増やせばOK」と考えず原因を切り分けることが大切です。
施工は信頼できるプロに依頼する
電装系に自信がない場合、無理に自分でやらずに実績のあるプロショップや整備工場に任せるのが安全です。
その際も、充電制御付きの車なら電流センサーを考慮した施工ができるか、熱害対策は万全か、といったポイントを確認しましょう。
プロに依頼しても「自己責任」であることは変わりませんが、少なくともリスクを最小限に抑えることができます。
リスクとリターンを天秤にかける
最後に、アーシングのメリットとデメリットを総合的に比較してください。
費用(数千~1万円程度)や手間に見合うリターンが本当にあるのか、最悪トラブルが起きた場合に対処できるかを考えましょう。
多くの専門家が「アーシングはおすすめしにくい」と述べているように、メリットよりリスクの方が上回るケースもあります。
特に日常の足として確実性を求める車には無理に手を加えない方が無難です。
どうしても興味がある場合は十分知識をつけた上で、覚悟を持って臨んでください。
やってはいけない車のアーシング:効果と注意点を総括
記事のポイントをまとめます。
以上、車のアーシングについて効果がない場合や逆効果となる事例を中心に解説しました。
ぜひ愛車のカスタム計画の参考にして、安全で快適なカーライフを送ってください。
無理のない範囲で、車と長く付き合うための知識を大切にしましょう。





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