先日、とても珍しい修理に遭遇した時のお話です。
まだ新車の匂いが香る、R03/04登録のエルフになります。
クラッチが切れないとの事でご入庫した車ですが、かなり焦げ臭いにおいがしたのでクラッチがダメだと思い診断を始めました。
クラッチの調整代があったので調整してもクラッチが切れない状況でした。
お客様にはクラッチオーバーホールをする事でご了解を頂きました。
作業完了後、乗って帰られて直ぐに電話がありました。

セルが空回りしてエンジンがかからない。
ここから、原因不明の症状が続く事になります・・・。

整備士歴26年の私が、初めて遭遇した修理内容を動画と共にご紹介したいと思いこの記事を書きました。

修理対象車両情報・依頼内容
修理対象車両情報:イスズ エルフ 2RG-NJR88A 4JZ1 R03/04 走行27000km
依頼内容:クラッチが切れない→エンジンかからない(セルが空回りする)
通常でしたらクラッチオーバーホールで作業は完了する内容です。
作業内容 1
クラッチオーバーホールをしていきます。
ミッションを降ろした所です。
まるで鳥の羽の様に見えますが、クラッチディスクがばらけた状態です。
ここで、今回の鍵になるフライホイールのリングギヤですが目視では問題ありませんでした。
組付け時にも、クラッチカバーを締め付け時にリングギヤにバールを掛けて締めましたが問題なかったです。

クラッチディスクが、完全にばらけて鉄板がむき出しになっています。

周りの白いのも、クラッチディスクの残骸です。

半クラッチ多用や荷物を積んでいる時に、2速発進などを繰り返すとこの様になります。

作業も終わり、試運転も完了しました。この時点ではエンジンの始動には全く問題ありません。
お客様に引き渡し完了しました。
引き渡し後に電話が鳴りました 1
乗って帰られて直ぐに電話がありました。あの電話です・・・。

セルが空回りしてエンジンがかからない。
信号待ちでエンジン止まった後に再始動が出来ないとの事です。
現場に直ぐに向かいました。
しかし、到着時にはセルで普通にかかります。
何度、繰り返してもエンジンの始動には問題ありません・・・。
お客さんに状況を説明すると、様子を見るとの事で乗って帰られました。
引き渡し後に電話が鳴りました 2

車庫でエンジンを切ったらまた、セルが空回りしてエンジンがかからない。
再度、現場に向かい状況確認しました。
電話の通りセルが空回りしています・・・。何度かセルを回しているとエンジンがかかりました。
一度エンジンがかかると、何度繰り返しても症状は再現出来ませんでした。
考えられる原因
一番原因が高そうなのは、やはりセルモーターと思われます。
もう1つは、リングギアの不良です。
ただ、現在の走行距離が27000kmしか走っていない事です。
両方すればいいのですが負担額が大きすぎます。
お客さんにはセルモーターの交換する事で話はつきました。
イスズのサービスに相談しました。
似たような症状が何度かあったようです。
それは、リングギアの空回りではないか?
クラッチの焼けが原因でフライホイールに熱が入りリングギアが空回りしたのではないか?という事です。確かにかなり焼けていたので可能性はかなり高いですね。
通常、フライホイールとリングギアは焼き嵌めという方法で固定されています。
軸と穴のはめあい方法のひとつで、常温では軸より小さい穴を、加熱膨張させることではめあわせ、堅く結合させる方法です。 軸を受ける穴を加熱し膨張させて広げ、軸をはめ入れます。 その後、冷却すると固着状態になります。 相互にしっかりと固定されるため、分解することのない永久的組立となります。
工業用語集 焼き嵌めとは
焼き嵌めという方法で永久的な方法で組み立てているので通常は動く事ありません。
念のため両方の部品を用意して作業していこうと思います。
作業内容 2
どうしても、数日間は車が空かないとの事で3日後に再入庫です。
当日の朝も、何とかエンジンをかけて来店されました。
作業前にエンジンを切ると何度試しても、セルは空回りするだけで再始動できません。
入庫時のセルの状況
セルは、空回りしてエンジンが始動する兆候すらありません。
たまたま、近くに腕の立つ電気屋さんがいたので音をきいてもらと・・・
「セルモーターが悪いんじゃないかな」
私もそう思っていました。
ここで気になる音があります。それは、セルが回った後にシャラシャラとかすかに音が聞こえます。
セルモーターを外した状況
リングギヤが良く見える状態です。
動画で確認してもらえば分かるようにリングギヤが空回りしています。
原因判明
フライホイールに焼き嵌めされているリングギヤが空回りする事でエンジンがかからなかったようです。
先程の動画でのシャラシャラ音は、リングギヤが空回りしている音でした。
原因が分かりましたので再度、ミッションを降ろしていきます。

フライホイールが外れました。
外見では特に悪い感じはしません。
エルフは、クラッチオーバーホールの時にフライホイールを外すことはありません。なぜならパイロットベアリング交換は工具があれば、フライホイール外さずに出来るからです。

裏側を見ると色が変わっていて、かなり焼きが入っていますね。
フライホイールにかなりの熱が入った事により、リングギヤに微妙な隙間が出来たんでしょう。

フライホイールのリングギヤ動画
20年ほど前にリングギヤの交換作業をした記憶はあります。その時は、リングギヤの歯が削れていたので交換しました。
しかし、今回の様な状況は初めて見ました。
リングギヤの空回りの動画です。
交換部品
フライホイールASSY 62500円
パイロットベアリング 1010円
ピン 210円×2本
クラッチカバー・クラッチディスク・レリーズベアリングは前回交換しているので再使用です。

あとは、復元して作業終了です。
最後に作業完了後、正常なエンジンのかかり方の動画です。
これですべての作業完了になります。お疲れさまでした。
この記事を参考に作業する上での注意点
この記事は、整備書にない手順・方法や私自身のオリジナル修理・整備方法なども書いておりますので作業される場合はすべて自己責任なりますので注意してください。
まとめ
クラッチを滑らした車両はこの様になる事があります。
今回のお客様は、積載時で2速発進を繰り返し半クラッチを多用した事によります。
発進時には、できるだけ1速発進が望ましいですね。
トラックの運転手さん、気を付けて下さい。
整備をする方も、短期間でクラッチを滑らした車はフライホイール・リングギヤの点検も忘れない様にお願いします。
GAMの記事はいかがでしたか?
皆さんのお役に少しでもたてましたか??
最後まで読んでいただきありがとうございます。
コメント
勉強になる内容で大変助かります。
私の所にも同じような症状のNJR88が入庫してます。
2年程前にクラッチ交換はしてます。
セルモーターが空回りしますがクラッチを踏むと引っ掛かりができたような
感じでエンジン始動しますがシャラシャラ音がしています。
まだセルモーターを外して確認していませんが同じような症状だなと思い連絡させていただきました。
コメントありがとうございます。
お役に立てて何よりです。
そうですね。
一度セルモーターを外してリングギヤを動かした方がいいかもです。
貴重な情報ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。